転職活動を行う中で、必ずといっていいほど目にする「求人票」や「求人広告」。そこに書かれている言葉の正確な意味を知らないと、入社後にギャップを感じる原因にもなります。今回は、実際に転職を経験した方270人に対して実施したアンケート結果をもとに、「求人情報をチェックする際に注意すべきキーワード」について4つのテーマに分けてご説明します。

この記事を書いた人

平井 伴弥(キャリアバンク株式会社 代表取締役社長。これまで中途・新卒採用領域でのべ200社以上の大手~ベンチャー企業の採用支援を行う)

【仕事内容編】仕事についての全てが書かれているとは限らない

【仕事内容編】仕事についての全てが書かれているとは限らない

転職において「どのような仕事なのか」「具体的にはどのように仕事を進めていくのか」は、求職者にとって重要なポイントです。しかし、仕事内容の全てが書かれているとは限りません。次にご紹介するキーワードには、別の意味が隠れている場合もあります。

「ノルマなし」

営業の募集で「ノルマはありません」という記載を見かけたことがある人は多いのではないでしょうか?実は「ノルマはないけれど、目標はある」というケースがあるため、注意が必要です。一般的には「ノルマ=達成しなければいけない数値(売上、受注数など)」「目標=目指すべき数値」という意味で使われていて、目標の方がゆるいイメージがあるかもしれません。しかし、会社によっては目標を達成できないと「どうして達成できないんだ」「何とか達成しろ」と責められる、ということも。選考の途中で営業所を見学させてもらったり、口コミサイトで営業の方が投稿している情報をチェックしてみることで、社内の雰囲気を入社前に感じ取れるかもしれません。

ノルマがないと言われていましたが、実際は目標があり、目標達成していなければサービス残業を当たり前にさせられていました。(30代女性・保険営業)
「ノルマなし」という言葉を鵜呑みにしていたが、実際は「ノルマはないけど、変わりに目標がある」ということだった。言葉は違えども結局はノルマがあり、日々個人別の売り上げ目標が設定されていて達成状況などが掲示されていた。(30代女性・ジュエリー販売員)

「事務」

土日休みが多く、座ってできる事務の仕事は、特に女性に人気の職種です。しかし、職種名が「事務」と書いてあるにも関わらず、事務の仕事だけでなく、「テレアポ」「営業」といった方が適切とも言える業務が含まれている場合があります。「簡単で誰でもできる事務の仕事」とうたっておきながら、月給がやけに高い場合などは疑った方がよいかもしれません。

家庭教師の派遣を行っている会社で事務職として採用されたのに、実際行ってみると「今やることそんなにないから、このリスト見て電話して」とテレアポをさせられた。(40代女性・教育)
求人情報には「事務仕事」とあったのですが、事務仕事をしつつ電話営業もお願いしますと言われ、営業と事務を兼用することになりました。(30代女性・金融)

【休み・勤務時間編】ちょっとした違いで大きな差が出ることも

【休み・勤務時間編】ちょっとした違いで大きな差が出ることも

転職にあたり、「もっと休みが多い会社に入りたい」「次の会社では残業を減らしたい」と考える方も少なくありません。関連するキーワードの意味を正確に理解し、理想の働き方を実現しましょう。

「完全週休2日制」

完全週休2日制というのは、「毎週必ず2日は休みがある」という意味です。土日休みの会社が多いことから「完全週休2日制=土日休み」と勘違いする方もいるようですが、実際には月火休みでも水木休みでも完全週休2日には変わりありません。また注目したいのは、完全週休2日制だからといって祝日が休みになるとは限らない、ということ。求人票の休日欄に「祝日」と記載されていない場合は、面接時などに確認した方がよいでしょう。

求人を見た時点で土日休みと思い込んでいたが、実際に働いてみると、土日は毎週稼働で平日休みの週休2日制だった。(30代男性・飲食)
完全週休2日とあったので、土日は必ず休みで祝日はお休みだと思って入社しました。しかしフタを開けてみると、祝日は出勤でした。(40代女性・医療)

「週休2日制」

「週休2日制」と「完全週休2日制」を勘違いされるケースも多いようです。週休2日制とは「1ヵ月の間に2日休める週が少なくとも1回以上あり、それ以外の週も1日以上休める」ということ。つまり、最初の週だけ週2日休みがあって、残りは毎週1日しか休みがない場合にも当てはまるのです。気になる場合は、実際にはどのくらい休みがあるのか、必ず質問しましょう。またこちらも完全週休2日制の場合と同じく、土日休みとは限りません。

週休2日と書かれていたので毎週土日は休めると思っていたのですが、実際は第ニ・四土曜日は出勤日となっていました。毎週土曜を休みにするには有給を消化する必要があると聞き、驚きました。(30代女性・卸売)
週休2日制ということで応募しましたが、月に6回しか休みを取れませんでした。毎週2回の休みがあるものだと思い込んでいました。(30代女性・小売)

「残業なし」

「残業なし」などと書いてあると、あたかも残業がないように感じられます。しかし、中には定時前の朝礼への参加や定時後のオフィスの掃除などが存在していたりするケースがあります。また業務量が多くて残業なしでは終わらないにも関わらず、定時で退勤するよう伝えたうえで、「終わらなければ帰宅後に自宅で作業をするか、朝早く来て仕事をするように」と指示する会社もあるようです。本来は「家に持ち帰った仕事」「始業時間前に出社して行った仕事」のいずれも残業であり、残業手当が発生します(ただし「満員電車を避けるために自発的に早めに出勤して仕事をしている」など、上司の指示がない場合は当てはまりません)。

「残業ゼロ」と求人票に書いてあったが、定時後に掃除片付けをする必要があった。ほかの人に片付けを任せることはできないので、結局毎日30分ほど残業をしていた。(20代女性・建築)
「残業なし」と書かれていたが、お店の開店作業・閉店作業が残業に含まれておらず、サービス残業が発生していた。(20代男性・靴販売店)

「平均残業時間◯時間」

平均残業時間を求人に記載している企業もよく見かけますが、場合によっては注意が必要となるケースがあります。平均残業時間とはあくまで平均値を指すので、求人の募集をかけている部署が同程度の残業時間になるかはわかりません。選考時に募集しているポジションにおける残業はどの程度になりそうか確認しておきましょう。

求人票には「平均残業15時間以内」と書かれていたが、私が配属になった部署は新進気鋭の部署で、マネージャー陣をはじめ平均残業時間は余裕で20時間をオーバーしていた。「平均」という言葉を鵜呑みにするのはよくないなと感じた。(20代女性・IT)
「平均残業20時間以内」とあり応募したが、私が採用されたポジション(社内SE)は残業が多いことを入社後に知った。従業員の多くの割合を占める営業や製造の部署は残業が少ないため、均すと数値が低くなることに気づけなかった。(30代男性・SE)

「月◯日休み」

夜勤の仕事などで、たまに「月15日休み」などとうたっていることがあります。求人を見てみると「月曜日は9時~翌日9時勤務。火曜日は休み、水曜日は9時~翌日9時勤務。木曜日は休み、金曜日は9時~翌日9時勤務、土曜日は休み、日曜日は休み」などと書いてあることも。これは「月・水・金は翌日まで働いている」ということ。つまり、火曜、木曜、土曜は夜中の12時から朝の9時まで働いているのですから、休みとは言えません。ただし、最低週1日以上の休みがあればよいので、日曜日がフルにお休みとなるこのケースは「違法ではないけれど、求職者に誤解させるような休日の書き方」に留まっています。また、飲食店の繁忙期などに「週2回の休みを、4回の半休(8時間勤務のうち、4時間のみ勤務など)に分けて取って欲しい」と頼まれた、といったケースもあるようです。これも「最低週に1日は、午前0時から24時間休める日が必要」ですが、もう1日は半休を2回でも、違法にはなりません。

「有給休暇を完全消化可」

働き方改革関連法により、会社は有給休暇が年10日以上付与されている労働者に対して有給休暇を年5日以上取得させる義務がありますが、完全消化、つまり全ての有給休暇を消化することができるとうたっている求人もあります。しかし私が今まで多くの企業の採用担当者と面談してきた中で、「完全に消化している社員がいる」という会社も確かにいくつかはありましたが、総数としては多くありません。ましてや、社員全員が完全消化しているという話は聞いたことがありません。有給休暇の取得は労働者の権利ですが、業務の状況により取りにくい時期もあるでしょう。できるだけ有給休暇を活用したいという方は、実際にどれくらい取得しているのかを確認した方がいいかもしれません。

有給をとりやすい環境であると求人サイトには書いてありましたが、私の部署はとても多忙で、とても付与されている日数すべてを消化できる雰囲気ではありませんでした。(30代男性・接客)

【お金編】わかりやすい数字だけで判断するのは危険

【お金編】わかりやすい数字だけで判断するのは危険

転職先を探すうえで、お金はもっとも大切な条件の一つですが、ここでも似たように見えて、注意が必要な表現があります。下記のキーワードを意識しながら必要な情報を集め、入社直後だけでなく5年後、10年後も見据えて検討しましょう。

「月給◯◯万円」

月給は毎月固定で支払われる賃金を指します。その中身は「基本給」と「固定で支払われる手当(固定手当)」になりますが、実は月給が高くても基本給が少ないと損することがあります。例えば、月給25万円で「基本給が20万円、固定手当が5万円の場合」と、「基本給が24万円で固定手当が1万円の場合」を見てみましょう。もしこの会社の賞与が夏に基本給2ヵ月分、冬に基本給2ヵ月分支給される場合、基本給が20万円の場合は年間の賞与は80万円、24万円の場合は年間の賞与は96万円となり、16万円もの差が生まれるのです。また、中には給与を少しでも高く見せようと、月給の中に業績手当といった、確実に支払われるとは限らない手当を含めている会社も。月給の内訳、特に基本給とそれ以外について、できるだけ詳しく確認しましょう。

「ボーナスが5ヶ月分もらえる」と聞いていたが、想定よりも少なかったため人事に確認したところ、基本給の5ヶ月分であることを知った。(20代男性・営業)

「昇給あり」「給与改定あり」

残念ながら、求人票に「昇給あり」「給与改定あり」といった記載があるからといって必ず毎年昇給するとは限りません。「昇給あり」の場合は、1年の間に何回昇給のチャンスがあるのか、また昇給の条件や、平均でいくらぐらい昇給するのか確認しましょう。そして給与改定ありと書かれている場合は、会社の業績や個人の成績などによって、給与が上がるだけでなく下がる可能性もあります。最近に給与が下がった実例はあるのか、どのような理由で下がるのか、などをはっきりさせておかないと、後悔することになるかもしれません。

「昇給あり」と書いてあったため、毎年昇給してくものだと勝手に思っていたが、入社後10年間のうち昇給したのは2年間(2回)だけだった。しかも昇給額は時給で10円程度で、期待していた額とは程遠かった。(40代男性・製造)
「昇給制度がある」と求人サイトには記載されていたが、実際には何年働いても1円の昇給もなかった。先輩に話を聞いたところ、実際に昇給したことがある人を聞いたことないと言われた。(20代女性・アパレル)

「賞与年2回」

賞与(ボーナス)が年2回支給されるとはいっても、どのくらいの金額が支給されるかは会社によって様々です。1回あたり1~2万円、年間でも5万円足らずという企業もあれば、基本給の5ヵ月分が支給されるケースも。「賞与があるから待遇がいい」と安心するのではなく、実際にどのくらいの支給実績があるのかを確かめましょう。

実際に入社し賞与をもらってみましたが、月給の1カ月にも満たない賞与でした。なんだか騙されたような気がして残念でした。(40代男性・食品配送)
「賞与あり」と書いてあったため、多額の賞与がもらえると勝手に期待していましたが、金額は5千円でした。正直期待はずれでした。(20代女性・サービス)

「交通費一部支給」「交通費一律支給」

仕事にかかる交通費にも、色々な種類があります。いわゆる家から会社までの交通費は通勤交通費、営業などで顧客先を訪問する際の交通費は営業交通費、などと区別する場合もあります。「一部支給」ならどこまで支払われるのかを確認しないと、多くの金額が交通費で消えてしまう、という可能性も。また「一律支給」という場合は、全社員に月2万円など同じ金額を支払っているケースが多いようですので、遠方から通う人や営業交通費が多くかかる人は赤字になるかもしれません。また、マイカー通勤の場合は、家から会社までの距離に合わせてガソリン代が支給されることもあります。

「交通費支給」と書いてあったので、全額支給だと思っていましたが、実際は通勤距離1キロメートルにつきガソリン代15円支給というもので、車種による分類もなく、燃費の悪い車に乗っていた私の交通費は毎月かなりマイナスでした。(40代男性・人材派遣)
「交通費支給」と書いてあったのですが、仕事で客先に訪問へ行くのにかかる移動交通費は一切もらえませんでした。(40代女性・保険営業)

【雇用編】会社の「将来性」を表していることもある

【雇用編】会社の「将来性」を表していることもある

「正社員募集といいながら、試用期間(契約社員)が非常に長い」「正社員はほとんどおらず、アルバイトばかり採用している」といった企業は、業績が悪化していたり、先行きが不安だったりということがあります。特に次の転職先で長く働きたい人は、下記のようなキーワードに着目してください。

「正社員募集(※試用期間あり)」

試用期間なしで採用する企業はあまりなく、通常3~6ヵ月程度の試用期間を設ける場合がほとんどです。ただし、中には試用期間をはっきりと定めない、あるいは試用期間を延長して、いつまでも契約社員扱いのままというケースもあります。残念ながら、試用期間を規制する法律はありません(ただし最長で1年が限度と解釈されることも)。選考の段階で試用期間についてはっきりした回答が得られない場合は気をつけましょう。

「試用期間あり」と記載された求人に応募し、入社しました。入社後3ヶ月くらいで正社員になるものかと思っていましたが、実際に正社員になったのは1年後でした。(50代男性・建設)

「正社員登用あり」

「正社員登用あり」とは、アルバイトや契約社員として採用されるものの、将来は正社員になれる可能性があることを示しています。といってもほぼ全員が正社員登用される会社もあれば、まず正社員登用の見込みがない(実績はあってもごくわずか)という会社もあり、実に様々です。将来は正社員になりたいという思いが強い場合は、これまでの正社員登用の実績(アルバイト・契約社員を何人くらい採用し、そのうち何割くらいが正社員登用されたのか。正社員登用までの期間)について確認しましょう。

「正社員登用あり」とのことでしたが、登用の基準が非常に難易度の高いノルマを一定期間継続してクリアする必要がある、というものでした。(30代男性・コールセンター)

「大量採用」

新しい事業を立ち上げた、事業が急に拡大したという場合を除いて、大勢を採用しようとする会社には注意が必要です。というのも、そもそも採用したくてもなかなか採用できない会社か、あるいは何らかの問題が起こって急に多くの社員が退職したのかもしれないからです。求人票や求人広告に大量採用の背景・理由が書かれていない、またはたずねたときに相手が口ごもるようであれば、何かオープンにしづらい理由があると考えた方がいいかもしれません。

大量の人員を募集しているとのことで、受かりやすいと思って気軽に応募しましたが、実際はとてもブラックな環境でした。従業員を大量に採用し、激務に耐えきれる人だけ残ればいいという考え方のようで、私はすぐに退職しました。(30代男性・不動産)

「ワーキングママも活躍中」

「今の会社では産休や育休が取りにくそうだから、仕事と子育てを両立できる会社で働きたい」という方もいらっしゃるでしょう。ただし、「ワーキングママも活躍中」というのは、あくまでお子さんのいる女性が在籍しているという意味であって、必ずしも正社員とは限りません。中には育児休暇後や短時間勤務制度を利用する場合は、正社員から契約社員やパートに切り替える、という会社もあるようです。

「時短勤務可能でワーキングママも活躍中」という点に魅力を感じて応募しましたが、実際は、ワーキングママとして正社員で働く方はほとんどいなく、パート勤務に切り替えている方ばかりでした。(30代女性・ブライダル)

おわりに

転職は人生に大きな影響をおよぼす重大なライフイベントの一つです。納得のいく仕事を探すためにも、求人票や求人広告をよく読むだけでなく、そこに書かれていることを正確に理解し、それでも分からないことは面接などで質問するよう心がけましょう。

アンケート概要

  • 調査方法:インターネット調査
  • 調査内容:「求人情報を見る際に注意すべき文言」に関する調査
  • 調査対象者:直近2年以内に転職を経験している方270人
  • 調査期間:2021年8月